中国新医療改革におけるグローバル製薬メーカの行く道
2010/07/01
中国の新医療改革の深化に伴い、グローバル製薬メーカの中国における事業展開の方向性も再検討しなければならないようになった。いかにより多くの医薬品が「国家基本薬物目録」に収録されるか、また、地域市場の開拓、政府機関との意思疎通も必須課題となった。
かつて中国のいくつかの省・市にのみ駐在事務所を設立したノバルティス中国は、従来の本社主導経営方式を子会社による直接経営体制、すなわち「地方分権制」への改革を検討していることが、2010年3月にノバルティス社の情報により分かった。
「中国の新医療改革を背景に、各省政府がそれぞれの地域性に基づく政策を公布した。我々も各地域における異なる政策にそれぞれ応じて行動したい」と、ノバルティス大中国エリア主席の潘 傑寧氏が積極的な姿勢を示した。しかし、同氏は今回の改革を同社組織の再編成ではなく、「実は我々は各省における子会社に、より多くの決定権を与えることを以前から検討していた」と述べた。
「地方分権制」
一部の先発薬が特許切れに直面していることにより、「ロスする恐れのある市場シェアをキープするための新たな対策を講じること」が一部のグローバル製薬メーカの目前の課題となっている。それに対して、潘氏も「今後は新しい市場をより依存することになる」と明言した。昨年、中国政府が新医療改革に8,500億の政府資金を投入することを表明した。この巨大なビジネスチャンスが中国ローカル製薬メーカだけではなく、外資企業の垂涎の的にもなっている。グローバル製薬メーカの巨頭、イーライリリー社、ノバルティス社、ジョンソン&ジョンソン社など、次から次へと中国市場で展開を行っている中、中国での投資が増大している。
ノバルティス社が公布した2009年グローバル業績報告書によると、ノバルティスグループの純売上高(純売上=総売上-(売上値引+売上返品+売上割戻))は通常より11%増の、443億ドルに達し、会社創立以来の歴史的記録を作った。中国とヨーロッパ、米国、及びその他五大新興市場は、ノバルティス社全世界における業績の最も際立った地区となった。
2010年中国の新医療改革が更に深化され、基本薬物制度及び公立病院の改革が実施され始めた。
潘氏は外資メーカの医薬品の価格が高すぎることを否定しているものの、2009年8月に公表された「国家基本薬物目録(基礎医療衛生機構配備使用部分)」に掲載されている307種類の基本医薬品には、外資系オリジナル薬の見る影もない。これに対して各研究機構は、ある意味では、基本薬物制度の実施は外資系製薬メーカにとっては不利な動きである、との一般的な見解を示した。
ところが、各省レベルの政府が各自の実情に基づき、基本薬物目録に医薬品を補充することが可能であること、また、中央政府が各省の補充できる医薬品の品種数に対する明確な制限を設定していないことは、外資系製薬メーカの製品が基本薬物目録に収録されるチャンスを与えることになる。
統計によると、307種類の医薬品が含まれる基本薬物目録に対して、圧倒的多数の省が医薬品を補充することを計画しており、中でも江蘇省は292種類を補充、チベット自治区は445種類のチベット薬を補充した。各省の基本薬物目録への医薬品の補充数及び補充品種に関しては、地方政府が絶大な決定権を握っている。
しかしながら、中国医薬業界協会関係者の話しによると、GDPの発展に伴う需要、及び薬価への考慮を理由に、各省は優先的にローカル製薬メーカを採用する可能性があり、すなわち、外資系製薬メーカにとって、地方政府の補充医薬品として採用されるのも容易ではない。
なお、「地方分権制」の実施は基本薬物制度への対応策だけではなく、運営体制の構造改革を通して、ノバルティス中国が中国の公立病院改革のトライアル実施に更に深く参与することを期待している、と潘氏が強調した。2010年2月に、中央政府は「公立病院改革方案」を正式に発表したが、同方案は原則的な意見だけを提起しており、具体的な実施方法に関しては、各地方政府主導の先行トライアルの実施を奨励している。「各省のトライアル実施内容が異なっており、それぞれに応じて参与すべきだ」と潘氏が述べた。
統計によると、外資系製薬メーカの製品の、病院における売上額と販売実績の成長率は比較的に高かった。
「地域市場を開拓し、取引先及び地方政府への更なる意思疎通を実現するため、製薬メーカが「地方分権制」を実行することは必然である」、また、国内大手の先声製薬(Simcere Pharmaceutical Group)も「地方分権制」を実施している、と上述の中国医薬業界協会の関係者が語った。
「値下げと交渉」
ノバルティス社の関係者らは同社の構造改革について細かく語ろうとはしないが、現在、同社には①新製品の推進 ②既存製品の値下げ ③2009年末に導入された高価薬交渉プロセスを通して、医療保険目録の範疇に入ることを図る、という選択肢があると考えられる。
MSD社(Merck Sharp & Dohme)はすでに同社の主力ヒット製品であるゾコール(シンバスタチン錠)を50%値下げし、その価格は中国ローカル製薬メーカの製品よりも低くなった。従って、当該薬は基本薬物目録に収録された唯一の外資系オリジナル薬となった。
2006年にゾコールが特許切れになった後、中国製薬メーカはゾコールの模倣薬を製造し始めた。しかし、今回の値下げを通して、MSD社が期待する市場を奪い返すという目標が達成できた。ゾコールはすでに広東、天津、江蘇、浙江、雲南等すでに基本薬物の入札買付けを行ったほとんどの省・市において落札された、とMSD社広報部マネージャーの安衛紅女史が紹介した。
ゾコールの市場シェアの増加は競合他社に痛手を負わせることとなる。ゾコールと同じく降圧薬であるファイザー社のリピトールは、世界中で最も売れている医薬品の一つであり、常に販売成績トップの座に君臨しているが、業界者は、ゾコールの値下げはリピトールの販売実績に大きく影響するであろうと予測している。しかしながら、リピトールは2011年に特許切れとなるので、高価薬としての「黄金時代」もそう長くは続かない。特許切れ後、模倣薬が大量に出回ることが考えられる。
同様に、ワクチン分野におけるノバルティス社のライバル社であるグラクソ・スミスクライン社も、大部分の発展途上国での薬価を三分の二まで引き下げた。
自発的に値下げを決行する以外、外資系製薬メーカに残された選択肢は、中国医療保険部門と交渉することである。癌などの重病に対し、人的資源社会保障部も、医療保険目録の中に一部高価なハイエンド医薬品を導入することを検討し始めている。
情報源:「中国経営報」
